NHK報道局が実践している「ソーシャル・リスニング・チーム」とは?


減災インフォでは、さまざまな団体や機関と情報交換を行い、今後の活動や災害時の連携に役立てていきたいと思っています。その第一回目として4月にNHK報道局の方々との情報交換の機会をいただきました。

NHK報道局は2013年から「Social Listening Team/ソーシャル・リスニング・チーム(SoLT:ソルト)」という専門チームを立ち上げ、ソーシャルリスニングのプロジェクトを実践しています。今回はこのソルトについてお伺いしたレポートをお届けします。

ソーシャルメディアの情報を収集・分析。報道へつなぐ

ソルトの目的はTwitterなどのソーシャルメディアの書き込みを収集・分析して、災害や事件・事故、ネットでのトレンドといった情報の端緒をつかみ報道につなげることです。

流れとしては

Twitterのタイムラインなどのソーシャルメディアの情報を交代制で24時間常時、収集

収集した情報をデスクがチェック。必要なら社会部や地方局へ取材要請することで報道へつなげる という仕組みとなります。

情報を一次的に収集するスタッフは、契約スタッフや退職した元NHK記者などで、2人から4人の交代制で24時間365日、情報を集めています。

他のマスメディアでも同じような取り組みは実践されているようですが、ソルトの場合、収集チームとデスクの距離が物理的に至近距離にあるため、例えばTwitterで事件の端緒をつかんだら、スピーディーに報道にまで実現できるのが強みです。

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東日本大震災をきっかけに発足。取材・放送につながった事例も

ソルト立ち上げのきっかけは東日本大震災でした。ツイートに端を発し、被災者救出につながったケースとしては、気仙沼の事例が挙げられます。

宮城県気仙沼市役所が唯一ツイッターを使って「津波がまもなく来ます」「市街地で火災が起きている模様」といった情報を発信していた。それらはまさに災害に直面している多くの気仙沼市民には届いていなかったかもしれないが,被災地の状況を東京や全国に発信するうえでは大きな役割を果たしたといえる。その気仙沼市役所の情報も夜には途絶えたため,続いて探したのはツイッターに数多く投稿された「○○市の公民館に取り残されています。助けてください」といった SOS メッセージだった。その中に「気仙沼市の中央公民館に児童を含めた400 人余りが取り残されている。助けて」というツイートがあり,これは公民館に取り残された母親の窮状を知ったロンドン在住の男性がツイートし,それが次々に拡散したものだった。このケースは記者が原稿化し,最終的に東京消防庁につながって,翌朝の早期の救出につながった。(「震災ビッグデータからソーシャルリスニングへ」より/リンク後述)

しかしながら震災報道では、「Twitterを観測する要員が足りない」、「ネットで発信されている膨大な情報をキャッチする設備がない」、「情報の信頼性を判断するノウハウがない」、「放送部門との連携がない」といった“ないないずくし”だった反省から、これらの課題を解決するには専門チームが必要という判断に至りました。

またアメリカでは、当時すでにメディアの記者が日常業務においてTwitterを取材ツールとして活用していたこと、実際にTwitter経由で事件を知り記事にした事例があったこともソルト発足を後押ししました。

ソルトの開始から1年9ヶ月余り、事件・事故を中心に、ソルトによる情報キャッチから取材・放送につながった事例は数多くあるということです。災害時には災害の種別に応じて検索ワードをセット、状況を見て新規ワードを追加しながら情報を収集・分析し、情報収集係とは別に収集した情報が本当かどうかを判別する特定係を設けることでデマ対策にも力を入れています。

ソルトは情報発信にも積極的に関わり、NHK報道局のTwitter公式アカウントとして生活・防災情報を発信している「NHK生活・防災」の運用や、ニュース番組「シブ5時」内にてインターネット上で話題となっているニュースやワードを紹介するコーナーを担当しています。

ニュース_シブ5時_-_NHK

現在はまだ小規模の取り組みで、局内のベンチャー的な存在として位置づけられているソルトですが、その取り組みは確実に成果を上げており、報道への貢献が期待されています。さし当たっての課題としては、効率よく運営するための仕組み化が必要とされ、既存のツールを使った人手による情報収集・分析に頼っている状況から、自動化へと改善を図っていきたいとのことでした。

減災インフォでは、今後、ソルトとどのように連携していけるか、その方法を模索していきます。 最後に今回、情報交換の貴重な機会をいただきましたNHK報道局の皆さま(足立義則さん、田中晋さん、山下和彦さん、山本智さん)ありがとうございました!

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