レポート:5/21メディアによる災害報道ハッカソン #EditorsLab


「災害報道」がテーマのメディア向けハッカソン「東京エディターズ・ラボ」〜未来のニュースのプロトタイピング(主催GEN(Grobal Editors Network)、ONA JAPAN)、5月21日、審査員として参加してきました。
この取組みは、他の国でも行なわれていて、優勝チームは世界大会に出場する機会を得られるというものです。参加者は読売・朝日・日経など新聞社、NHK・フジテレビ・ニッボン放送、バズフィードジャパン、ニューズピックス、ヤフージャパンといったおなじみのメディア。その中の方々は「災害報道」について、どんな問題意識をもち、解決しようとされているのでしょうか?

参加してみて、「おぉ、私たち市民ボランティアと実は同じことを感じているんだなぁ」ということもあれば、大きく違う印象を持つこともありました。そんな気づきと共に、発表作品をすこしご紹介します。

(画像はGENサイトより)

(似ていると感じた)災害報道の課題認識

各メディア5分という短いプレゼンの中で、想いや課題認識として共通していると感じたのは以下です。

  • 平時からのコンテンツの準備が迅速な報道につながる
  • 被災地が求めているのは全般的な情報ではない
  • 個別のニーズに応えるには、マス報道と違うアプローチが必要
  • 地域や時間軸で変化するニーズ把握には、従来の取材とは違う方法が必要
  • 情報弱者*への対策は別のアプローチが必要(*高齢者、外国人等)
  • 報道の偏りによる弊害を防ぐためには、可視化したり、メディア間で調整する機能が必要
  • 市民の災害時の行動につなげるためには、平時から自分ごとになるようなつたえ方、ビジュアルなつたえ方が必要

ふだんの記事から受ける印象とは(よい意味で)違い、希望を感じました。

温度感の違い?

一方、温度感が異なると感じた点は、報道をメディア内の努力と(一部を市民の協力)を中心に考えている点。オープンデータ始め国・自治体の公的データの活用や、各地域のメディア等との連携、災害支援の中間団体など関係機関との連携がほとんど話に出てこなかったことです。
今年度、内閣府防災でも「災害情報ハブ」など、バーチャルなALL Japanとしての災害情報共有のしくみの検討が始まっています。被災者が必要な支援情報と、支援するために必要な情報は異なるものの、本日参加されたような日本を代表するメディアの方々も、セクターを超えた連携・協力に参加・協力していくことが大切では?と感じました。


各メディアの作品紹介

続いて、現地からのTweetレポートを交えて、10チームの作品を紹介します。

★最優秀作品★ バズフィードジャパン&ヤフージャパン TaSKAL - Information for disaster victim

「迅速な報道に生かすには、平時から準備が必要なのでは?」「刻々と変わる情報ニーズにどう応えていくべきか?」という課題に向き合った提案。
過去の災害からこういう災害ではこういう情報が必要というように、平時に準備するテンプレートを持つCMS(コンテンツマネジメントシステム)で迅速に報道。
刻々と変わるニーズ変化にはヤフーの検索データを生かし、+バズフィードの取材力で現地の情報掘り起こし、ユーザーからの投稿受付も。
メディアはバズフィード、エンジニアとデザインはヤフーという混成チームも、メディアの未来を感じさせます。

GENから優勝インタビューを受けるバズフィード&ヤフーコラボチーム


☆特別賞☆ ニッポン放送 RE:PORT

 

「たとえ社員がひとりになっても、ラジオ放送を続けるマニュアルがニッポン放送にはあります」というプレゼンで、ハートをわしづかみにしたニッポン放送。
「現地情報が不足している」という課題への提案は、簡単な対話型UIで、現地の情報を市民が音声で録音、送信、それをラジオが(再生し)放送するというもの。
被災された方へのアンケートで、常に災害時ローカル情報で役立つメディアとして支持されているラジオ。ネット普及の低い海外への展開や、位置情報の付与、スピーチtoテキスト化での検索性など今後のネットメディアとのコラボの可能性にも期待。


☆特別賞☆ ヤフージャパン disaster coverage network

「報道への偏りが支援の偏りを生んでいるのでは?」という課題への提案。
CP(コンテンツプロバイダー)と呼ばれる多くのメディアからの記事を配信するニュースプラットフォームというヤフージャパンの特性を生かし、地域毎に記事数や重要度などを可視化。各メディア間で相談・調整できるようなニュースルーム機能の提案。
単に記事だけでなく、被災状況やその困難度の可視化と合わせて、ぜひ実現していただきたい提案。


朝日新聞B TenDenKo

VRを用いた避難体験サービス。平時は災害ニュースを。

NHK Creeping Crisis

熱中症やその他の災害への危機度、油断をAIで指数化する提案。
温暖化が進む中で、気象災害としての熱中症。細かな観測点や行動パターン、老人や子どもなど人による差などの要素をふまえ、わかりやすさが改善された今後に期待。

フジテレビ Hyperlocal Disaster Reporting

「被災者の立場では広域ではなく、近くの情報だけ見たい」という課題への提案。
フジテレビのコンテンツを位置情報で近い順に見ることができ、情報弱者向けにはミニロボットが知らせてくれる提案。
記者が取材、集めるコンテンツは膨大にも関わらず、放送されるコンテンツはわずかという課題への対処としては期待大。一方、社内の承認プロセスなしにコンテンツをネット公開することの障壁が高いと思われ、実現を応援したいアイデア。

日本経済新聞 How to spot fake news

Twitter等の情報のデマ・フェイクニュースを識別するというアイデア。

読売新聞 Tsunami Prevention

「自分ごとにするには、自分に関係する場所の情報でないと難しい」という課題への提案。
読売新聞130年のコンテンツを地図にマッピング、過去の災害の被災範囲のGISと共に掲載誌、防災教育というアイデア。
過去の被災範囲に入っていなければ問題ないと返って逆効果な面もあるという意見もありましたが、過去コンテンツのわかりやすいアーカイブはぜひとも実現いただきたいテーマ。


NewsPicks The most simple way to survive

「そもそも地震を知らない外国人にはつたえ方を変える必要があるのでは?」という課題への提案。
外国人向けの施策として「東京防災」的なビジュアルを用いた伝え方をするサービス。

※引用ツイート内に使用している言葉に一部、誤りがありますので以下に訂正します。
誤)NewsPics -> 正)NewsPicks  誤)DisasterPics -> 正)DisasterPicks

朝日新聞A Timely Disaster Responder

「新聞メディアではタイムリーにユーザーの疑問に答えきれていない」課題への提案。
Twitterのつぶやきをとらえて、その疑問に対する答えをリプライする提案。


最後に

私たち市民はメディアの報道にふれることはあっても、中の人の声を聞く機会はあまりありません。ネットやSNSが普及した現代、一部にはマスメディアを敵対視するような発言も散見します。でも、今回10組のプレゼンを拝聴し、中の人はそれぞれに悩みを抱えながら私たちと同じように考えているんだな〜と親近感を持ちました。


スマフォやSNSの普及で、個人が入手できる情報量は圧倒的に増えました。より自分に近いミクロな情報、よりわかりやすい情報を好む人が増えたように感じます。一方、テレビ・ラジオ・新聞、それぞれのメディア特性を生かし、マスメディアしかできないことはたくさんあるはず。「つたえる」立場にある組織や人は、立場を超え、All Japanとしての「エコシステム(生態系)」を作っていくことが求められているように感じました。

参加されたメディアのみなさま、ぜひ今回の入賞を問わず、まずは、それぞれのサービスの社会実装を!そして、ぜひ他セクターとも対話と協調を!


関係者のみなさま、貴重な機会に参加させていただき、ありがとうございました。



事前告知

 減災インフォでは、7月8日(土)午後に東日本大震災と熊本地震で作られた200以上の支援システムの紹介と今後の活用、備えに向けたイベントを都内で開催予定です。
 今回確認されたような課題もふまえ、公的機関・メディア・企業などがそれでも対応が難しく、IT・情報ボランティアが動くべき分野はあるのか? どう連携して、組織のスキマを埋めていくべきなのか議論し、備えに生かしたいと考えています。正式告知は6月7日を予定しています。